海外マクロ・コメント
海外マクロ・コメント
2009年10月 2日 09:51
○ISM製造業サーベイでは在庫サイクルの上向きへの転換を確認
9月ISM製造業指数は前月比-0.3ptの52.6へと予想外に低下した(市場予想は同+1.1ptの54.0への上昇)。内訳をみると、新規受注指数は同-4.1ptの60.8、生産指数は同-6.2ptの55.7と最も注目度の高い2項目が悪化しており、一見するとこれは悪い内容と思われる。ただ、ISMサーベイを評価するには指数の変化だけでなく水準も重要である。新規受注指数は3ヵ月連続、生産指数は4ヵ月連続で拡大・縮小の分岐点である50を超えていることを考慮すると、1ヵ月のみの低下をそれほど懸念する必要はないと思われる。
それよりも今回の内訳で興味深かったのは、在庫指数が前月比+8.1ptの42.5へと急上昇して昨年10月以来の高水準に回復したことである。顧客在庫指数(「過剰」−「在庫」)は前月比横ばいの39.0と低水準にとどまっており、在庫過剰感はみられない。それよりも、顧客在庫指数が示す在庫の過剰感は実際の在庫の動向に先行する形で逆相関関係にあり、今回の在庫指数の上昇は在庫調整の進展を受けた在庫補充の動きと判断することができよう。
2007年10-12月期以降の米国の実質GDPでは在庫の減少が(2008年7-9月期の1四半期を除き)成長率を押し下げる方向に働いており、特に今年前半には在庫が実質GDPの前期比年率成長率に対する寄与度は-1.9ppとなっていた。しかし、図表2で示したように、ISM製造業指数はGDP統計の在庫投資の有用な先行指標であり、近い将来に在庫投資のマイナス幅が急激に縮小してプラスまで回復することを示唆している。
当然ながら、実際に在庫が増加に転じた場合には先行きの生産拡大に向けたモメンタムはやや弱まることになる。米国のエコノミストがよく用いる製造業の先行指標に、「ISM製造業サーベイの新規受注指数と在庫指数の格差」というものがある(これは、需要の見通しに対して企業の在庫行動がどうなっているかを相対的に示す指標と解釈できる)。9月には新規受注指数が低下する一方で在庫指数が上昇したため、こちらの指標は8月の+30.5から+18.3へと大幅に低下した。しかし、それでもなお、これは通常のサイクルでのピークに近い水準である。たとえ先行指標がこれまでの急速な改善からピークアウトしてきたとしても、一致指標はそれにキャッチアップする形で強い回復を続ける公算が大きい。
メディアではあまり注目されないが、ISM製造業サーベイのプレスリリースには製造業の主要18業種の動向に関する情報が含まれている。これによると、9月に「拡大」を報告した業種数は13業種とむしろ8月の11業種から増加し、回復の裾野が一段と広がった。ちなみに、現段階でも「縮小」を報告している4業種は、プラスチック・ゴム製品、一次金属、機械、家具となっている。
○中古住宅販売の回復傾向は継続
8月中古住宅販売成約指数(PHSI)は前月比+6.4%と7ヵ月連続で増加した。PHSIは中古住宅の販売を契約成立段階で捕捉した指標であり、受渡段階の指標である中古住宅販売統計に1〜2ヵ月先行する。8月の中古住宅販売は前月比-2.7%が減少に転じたことで住宅市場に対する懸念が強まっていたが、今回のPHSIの堅調な増加で住宅需要の強さが確認された。PHSIのボトム(今年1月)からの累積増加率は29.1%にも達している。中古住宅販売の1月からの累積増加率が13.6%に過ぎないことを考慮すると、9月分の中古住宅販売は大幅に増加する可能性が高い。
PHSIを地域別にみると、西部が前月比+16.1%と7月の同+12.1%に続き急増したことが目立つ。西部のPHSIの水準(2001年=100)はすでに130.5に達し、2005年2月に記録したピーク(133.0)をわずか1.9%下回るのみとなっている。
○ADP雇用報告は雇用統計の先行指標としては信頼できない
9月ADP雇用報告は民間雇用者数が前月比-25.4万人となり、市場予想(同-20万人)よりも弱い内容だった。ADP雇用報告は雇用統計の2日前に発表されるため注目度は比較的高いが、リアルタイムで雇用統計の動向を的確に予告したことはほとんどないことに注意が必要である(事後的に雇用統計に整合するような改定が行われているため、長期的な時系列を見るとADPの信頼性が高いように思われるのは確かだが)。実際、図表2で示したように、過去4ヵ月間のADP雇用報告は雇用統計の実際の民間雇用者数を一貫して過小評価しており、その誤差は平均で9.7万人に達する。仮にこの誤差をそのまま適用すれば、今回のADP雇用報告が示唆する9月の民間雇用者数は前月比-15.7万人ということになる。
○コーンFRB副議長は出口戦略を急がない姿勢を示す
コーンFRB副議長は30日、「中央銀行の出口戦略」と題した講演を行った。まず、出口戦略の「条件」については、金利や金融環境の変化に対して支出行動や価格設定が調整されるには時間がかかることから、現状ではなく経済予測に基づき金融政策の判断を行う必要性があるとした上で、「我々は総支出が潜在供給力を圧迫する恐れが生じるよりもかなり前に、そしてインフレおよびインフレ期待が物価安定に整合的な水準を上回るよりもかなり前に、緩和策の解除を開始しなければならない」として予防的な利上げの必要性を強調した。ただ、コーン副議長は同時に「どの程度の速さで我々が短期金利をゼロ近辺から引き上げたり他の緩和策を解除したりしなければならないかを私は予測することはできない。これは経済がどのように回復するかとインフレの見通しにあまりにも左右される」とも述べている。これは、通常よりも早い段階で緩和策を解除し、積極的に利上げを行うべきだとする最近のタカ派の主張に比べれば遥かに慎重なスタンスと評価できよう。
出口戦略の「手段」については、バーナンキ議長の7月の議会証言と同様に、準備預金の金利の引き下げが「最も重要」とされたほか、MBSを用いたリバース・レポや銀行へのターム物預金の提供など新たな資金吸収手段が検討中だということが明らかにされた。MBS買い取り策については、購入のフローが減少するだけでスプレッドに影響が及ぶ可能性が指摘され、「スプレッドが歪められているか長期金利は適切に反応していないとFOMCが判断」した時まで売却を検討することはないことが示唆された。
そして、今回の講演の中で最も注目されたのは、結論の「経済状況はFRBや他の当局が取ってきた異例の措置への反応を一因として明らかに改善し始めているが、資源稼動はかなり低く、インフレは抑制されており、信用が制約される状況が続くことで回復のスピードが抑えられる公算が大きい。こうした理由から、FOMCは先週、異例の低金利が長期にわたり正当化する公算が大きいと表明した」という部分だった。最近ではタカ派の発言が目立っているが、これは低金利が確実に維持されるという見通しがインフレ期待を押し上げたり市場の過度のリスクテークにつながったりすることを予防するためのものと解釈される(最近ではウォーシュ理事がそうした役割を担うようになったのかもしれない)。一方、バーナンキ議長、コーン副議長やFOMCの公式見解では、利上げを急がない姿勢が引き続き示されるとみられる。
○S&P/ケースシラー住宅価格指数は上昇
7月のS&P/ケースシラー住宅価格指数(20都市)は季節調整前で前月比+1.6%、季節調整済で同+1.2%とともに上昇を続けた。前年比では、今年1月の-19.0%をボトムに4月までは-18%台で推移していたが、5月は-17.0%、6月は-15.4%、7月は-13.3%と順調にマイナス幅が縮小してきている。
S&P/ケースシラー住宅価格指数(10都市)の先物をみると、市場は住宅価格が来年初めには前年比でもプラスに転換すると予想している模様である(10都市ベースの前年比は直近7月が-12.8%、先物の2009年11月限が-4.8%、2009年2月限が+0.3%、2009年5月限が+3.9%)。
ただし、昨日の本レポートでも指摘したように、足元で住宅価格が回復してきた理由としては「季節性」を無視することはできないと思われる。通常の季節変動ならば季節調整値または前年比では除去されるが、住宅販売に占める差し押さえ物件の割合が今年は急上昇していることから、「個人の通常の住宅売買が春・夏に増加して秋・冬に減少する」というパターンの影響は従来に比べて遥かに強くなっており、その歪みを取り除くのが困難になっていると考えられる。実際、季節調整済ベースのS&P/ケースシラー住宅価格指数(20都市)を「差し押さえ多発4州(カリフォルニア、フロリダ、アリゾナ、ネバダ)の7都市」と「それ以外の13都市」に分解してみると、差し押さえ多発4州の住宅価格が今年5月から急激に改善していることは明らかだ。これは学期末の6月や夏休みに合わせて個人が通常に住宅を購入する時期に入り、差し押さえ物件の投げ売りの影響が「薄められた」ことを反映している公算が大きい。住宅価格のトレンドを見極める上では秋以降の動向を見守ることが必要と思われる。
○コンファレンス・ボードの消費者信頼感は予想外の低下
9月消費者信頼感指数(コンファレンス・ボード)は前月比-1.4ptの53.1と予想外に低下した。消費者信頼感指数の内訳をみると、期待指数は同-0.5ptの73.3と小幅な低下にとどまっており、現状指数が同-2.7ptの22.7に落ち込んだことが大きかった。現状項目では、特に家計の雇用判断が慎重になっていることが目立ち、「就職が困難」という回答の割合は8月の44.3%から47.0%へと再び増加している。これは今週発表される9月雇用統計が弱い内容となる可能性を示唆するものだ。ただ、実際の個人消費と相関性の高いのは現状指数ではなく期待指数の方である。もう一つの主要な消費者サーベイであるミシガン大学消費者センチメント指数は9月に前月比+7.8ptの73.5と改善していたことを踏まえると、今回の統計のみで近い将来に個人消費が再び大幅に悪化することを懸念する必要はないだろう。
○地区連銀総裁の発言は引き続きタカ派的
29日のフィッシャー・ダラス連銀総裁とプロッサー・フィラデルフィア連銀総裁の講演はともにタカ派寄りだった。フィッシャー総裁は、「金融政策が実施される時期とそれが経済に影響を及ぼす時期のラグを踏まえれば、経済成長に弾みがつき、銀行システムの貸出能力が拡大を可能とするようになった確かな兆候が出てくればすぐに(緩和策の)巻き戻しプロセスを開始する必要がある」、「金融引き締めを行う時が来れば、必要ならば、金融緩和を進めた時と同様なスピードと度合いで機敏に動くであろう」と発言した。プロッサー総裁も、「我々は失業率や他の資源稼動の指標が許容可能な水準まで戻るよりもかなり前に行動する必要があると考えている」、「大恐慌再来の可能性を低下させるため今回の危機において金融市場への流動性供給で積極的な措置を取ったのと同じように、FRBは大インフレ期の再来を避けるために必要な措置を取るであろう」と述べている。これは、先週のウォーシュ理事の発言に沿ったものであり、金融緩和の解除が通常よりも早い段階で開始され、いったん実施されれば通常よりも積極的なものになることを示唆するものだ。本日はコーン副議長が「出口戦略」に関して講演する予定となっているため、どのようなメッセージが送られるかが注目されよう。
情報提供:バークレーズキャピタル証券株式会社
